森で学ぶスウェーデンの幼児教育
スウェーデンの幼児教育の最大の特徴は何だと思いますか? それは「森での遊び」です。
スウェーデンでは小学校に入るまでに読み書きができることよりも、 外でたくさん遊ぶことのほうが大切だとされています。 では、「森での遊び」とはどんなことをするのでしょう。
スウェーデンの幼児がみんな大好きな「ムッレ」って何?
スウェーデンの保育園では5〜6歳の幼児を対象とした「森のムッレ教室」というカリキュラムを取り込んでいるところが数多くあります。
「ムッレ」というのは森に住む妖精のようなもので、 スウェーデン人なら誰でも知っている架空上の存在です。黒い縮れ髪で、緑色の服を着ていて尻尾がはえています。
このムッレに扮装した大人が森のなかから出てきて、子どもたちに 森での遊び方や自然の大切さを教えるのが「ムッレ教室」です。
ムッレが生まれたのは1957年。 子どもと一緒に森で散歩していた一人の親が 「架空の妖精を通じて森のなかで子どもが自然の大切さを学んでいく」 というアイディアを思いつき、一つの物語にまとめました。
そしてスウェーデンの野外活動推進協会がムッレの物語をベースにした 幼児教育を取り入れ、さまざまなかたちとなって広まっていきました。
国民の5人に1人がこの教室を経験したことがあるほど、 スウェーデンでは一般的な教育の一環となっています。
「森のムッレ教室」は子どもたちが自然のなかで思いきり遊んで、 自然が好きになることが最大の目的です。 それによって自然を大切にしたいという意識につながるからです。 エコライフを大切にする環境大国スウェーデンならでは、ですね。
「ムッレ教室」では具体的にどんなことをするの?
通常ひとグループ子どもが8人〜12人、リーダーと呼ばれる大人が2人です。 子どもは5〜6歳が対象です。 2、3歳頃の幼児にはまだ空想と現実の境目が理解できないため、 架空の存在だということを理解できる5歳頃になって初めてムッレに会えるのです。
週末のボランティア教室では2〜2.5時間、幼稚園や保育園だと1日中、 森で過ごすところもあります。
大雨でなければ雨の日も森へ行きます。 雨の日には雨の日ならではの自然の楽しみかたがあるからです。 子どもたちはカッパを着て楽しそうに外で遊びます。 ムッレ教室の1日を覗いてみましょう。
1.さぁ、森に出発!
いつも行く特定の場所(大木など)があって、それを「ムッレの場所」 と呼んでいます。 「今から自然に入っていきますよ〜」ということを知らせるために 最初にそこを訪れて「ムッレの扉」を開けます。
落ちている石や枝を鍵に見立てて歌を歌いながら扉を開けます。 「ムッレの扉」は架空のもので実際にはないのですが、 こうすることで特別な場所に入るワクワク感を高めていきます。
2.道中も楽しいな♪
拠点となる場所を目指して歩いていきます。 ムッレ教室ではいつも同じ場所を通ります。 そうすることで毎日の自然の変化に気づきやすいからです。
「昨日、ここにコケモモがあったのに今日はないね。 誰が食べたんだろう」「鳥かな。鳥はコケモモが好きだから」 というように会話をしながら歩いていきます。
子どもたちは道中も新しい発見をしながら今日はムッレに会えるかな、 というワクワク感を持って歩いていきます。
ムッレには毎回会えるというわけではなく、学期に1回程度です。 でも、いつもどこかにいるんだという気持ちを植え付けるために、 先生はムッレの落し物、例えば赤い羽根などをあらかじめ森のなかに 置いておきます。 そして「ムッレがここに来たんだね」と話して、子どもたちは 想像をふくらませるのです。
3.拠点となる場所に到着!
リュックを降ろして輪になって座ります。
ここから教室が始まります。 教室では毎回自然のなかにあるものを使って遊んだり学んだりします。
例えば葉っぱを使った遊びをするとします。 リーダーが「落ちている葉っぱを3枚ずつ拾ってきて」と声をかけます。
↓皆で拾ってきた葉っぱを白い布に敷いて観察します。
↓
リーダーは「この葉っぱの色は何色?」「この葉っぱはどんな手触り?」 など、いろんな問いかけをします。
↓
子どもたちはそれに対して「この部分は黄色いけど、ここは赤いね。」とか 「この葉っぱは触ると痛いね」など、答えていきます。
リーダーは子どもたちにいろんな問いかけをして、子どもたちが五感を 使ってさまざまな視点から自然を理解するように導いていきます。
4・お歌を歌いましょう!
ムッレ教室では自然についての知識が埋め込まれた歌が多く使われます。 スウェーデンで一般的に使われている歌とリーダーが作ってきた歌 があります。
この場合だと葉っぱを観察した後なので、葉っぱがテーマの歌です。 自然について学んだあと、それに関係した歌を歌うと、子どもたちの 頭にイメージとしてすっと入っていくので理解しやすいというメリットが あります。
5.お昼の時間だよ!
皆で輪になってサンドイッチなどの軽食を食べます。 食べ残しは特定の場所にあるコンポストに入れます。この次着たときはこの中がどうなっているか見るのも一つの楽しみです。 食べたものが自然のなかにどう還っていくのかを学んでいるのですね。
6.体を動かそう!
軽食を食べ終わると木を使ったゲームをします。 鬼を1人決めて、その鬼は「白い木!」「白樺!」など、みんなに指示を 出します。 みんなはそれに合った木を探して走り回るというゲームです。 遊びながら木について学ぶことができます。 木登りをしたり、自由に遊びまわったりすることもあります。
6.帰りの時間も楽しいよ。
あっという間に帰る時間です。 森に残したものはないか確認してから皆で「ムッレの扉」まで戻ります。 「今日も自然のなかでたくさん遊びました、ありがとう」 の感謝の気持ちを込めて扉を閉めます。
ムッレ教室最終日はやっとムッレに会える日です。
半年間、ずっとムッレについてあれこれ想像を膨らませていた子どもたち。 朝からずっとソワソワ、ドキドキです。
いつものように道中を歩いて拠点となる場所に到着すると、 何かいつもと違う雰囲気。 森のなかかからひょい、とムッレが現れました。 黒い縮れ髪のかつらをかぶり、頭には赤い羽根のついた帽子をかぶり、 お尻にしっぽのついた全身緑色の服に身を包んだムッレが登場!
ムッレは子どもたちと森との橋渡し的な存在で、自然からのメッセージを 子どもたちに教えます。
リーダーが毎日森に連れて行って自然の大切さを教えるのだから ムッレという存在は必要ないのでは?と思ってしまいがちですが、 子どもにとって自然の象徴である架空の生き物の存在があったほうが、 頭にイメージとしてすっと入っていくものなのです。
子どもってお化けはいないってわかっていても 想像力が優れているのですごく怖がったりしますよね。
ムッレという存在を毎日想像しながら森で遊んだり、 学んだりすることが重要なのです。
そして最終日にムッレに会って自然の大切さを教えられたときに 今までの森での経験がすんなりと頭に入っていくということです。 この「ムッレ理論」、なかなか深いですよね。
「ムッレ教室」のステップとは?|年齢に応じて段階があります
ムッレ教室には子どもの心身に合わせて一歩ずつ階段を上っていくような プログラムがあります。
1〜2歳頃では森のなかで安心して過ごせることが目的で、森の散歩から 始めます。
↓
3〜4歳は森にも慣れてくると身の回りのものに興味を示します。
↓
5〜6歳は初めて「ムッレ教室」に参加できます。 このくらいになると、自然との共生が理解できるようになってきます。
↓
小学校に入ると、自然環境と自分たちの社会の関係について一人ひとりが 意見を持ち、行動していくことを目的としています。
このように段階的にステップアップしていくことで無理なく一歩ずつ自然に 親しみながら理解していくことができるのです。
画像引用 http://aurorakaori.blogspot.jp/2011/09/4.html
(↑ムッレ教室に参加できる5〜6歳の時期は下から3段回目です。)
「ムッレ教室」のメリットは?|五感を鍛え思いやりと落ち着きを!
大自然のなかで遊ぶことによって、まず「五感」が鍛えられます。幼児期にさまざまな感覚を研ぎ澄ましていくことは脳への刺激にもなり、 人間形成の上で非常に重要なことです。
また、実際に森のなかで過ごすことによって 身をもって「自然との共生」を知ることができます。
「ムッレ」という名前はスウェーデン語の「ムッレン」(土壌)から 来ており、人間は土がないと生きていけない、というメッセージが込められています。
「人間と自然の共存」を幼い頃から実体験を通して学んでいくことが 自然を大切にする気持ちにつながります。
また、スウェーデン農業大学の研究チームが一般的な保育園と 「ムッレ教室」など野外遊びを重視した保育園の園児に対する 比較調査を行いました。
参考URL http://talkbar.saga-s.co.jp/archives/67018932.html
一か月、両園の子どもを比較した結果、「落ち着きがない」行動が 見られたケースは一般的な保育園が「77.3回」に対し、野外保育園が 「6.8回」!その差は歴然です。
野外でのびのび遊んだほうが子どもの健康、体力はもちろんのこと、 集中力や落ち着き、創造性、忍耐力、言語表現力などさまざまな 面でよい結果を生むことが実証されたのです。
このように森での遊びは子どもたちにさまざまな良い影響を与えている といっていいでしょう。
森の妖精、ムッレが子どもたちに自然の大切さを教える、というのは ムーミンの生まれ故郷、北欧ならではのユニークな幼児教育ですね。
日本にも「ムッレ教室」はあるの?
日本にも「森のムッレ協会」というものがあります。兵庫県に本部があり、国内に9支部あります。
その他、保育園や幼稚園で取り入れたり、週末にボランティアで
活動を行っている団体もあります。
野外保育は他にどんなものがあるの?
「森のようちえん」といって、1日を通して野外中心で保育をする幼稚園、 保育園が10年ほど前から北欧を中心に、日本でも広まってきています。
日本の「森のようちえん」は活動主体や活動の頻度、園舎の有無はさまざまで 幼児の野外活動を総称して「森のようちえん」と呼んでいます。 主に自主保育のところが多いのですが、一般の保育園や幼稚園で 週に何回か取り入れているところもあります。
「森のようちえん」には園舎がないところも多く、1日の大半を森や山で過ごします。
具体的には「鳥取県智頭町 森のようちえん まるたんぼう」 があります。
子どもたちは雨の日でも雪の日でもなるべく野外で過ごします。 2時頃までが森の時間で、その後は園舎に戻ります。 早帰りの子は親御さんが迎えに来て帰宅、延長保育の場合は お昼寝や遊びなどをして過ごし、5時に解散です。
「森のようちえん」は半日預かりのところが多いのですが、 ここは共働きの家庭を応援する仕組みになっていて、送迎もしています。
日本では今、子どもたちが大自然と触れ合う機会が減ってしまっています。 これではいけない、と危機感を感じて野外保育を広めようという親や教育者が 増えているようです。
充実した就学前学校|キーワードは「エデュケア」
スウェーデンでは6歳から学校が始まりますが、6歳から1年間は 「就学前学校クラス」で学び、7歳から義務教育である「基礎学校」 (9年間)に入学します。
スウェーデン教育法によると就学前学校の目的は「子どもに教育的な 活動を通して養護(care)と教育(education)を提供することである」 とされています。
この対策は「エデュケーション」と「ケア」両方を足して「エデュケア」と 呼ばれています。 幼稚園と保育園が一元化した「幼保一体」です。 これは日本では最近新しい保育のあり方として注目を浴びていますが、 スウェーデンでは早くからこれを取り入れています。
スウェーデンでは義務教育に上がる前の就学前学校は 人間形成の上でとても重要であるとされています。
そして共働き家庭に対する対策として保育の面も必要です。 「教育」と「保育」どちらの面にも優れた体制をとっているのが スウェーデンの「エデュケアモデル」です。
ただし、就学前学校では文字や読み書きを教えることはしません。 学習の土台になる好奇心を引き出すような授業をしています。
スウェーデンの教育で大事なのはIQではない?
スウェーデンでは幼児期に学習能力が劣っていても あまり気にしない傾向にあります。
IQよりもむしろ、好奇心や社会適応能力のほうが社会に出たときに 役立つという考えが主流のため、幼児期に外で友達とたくさん遊んで コミュニケーション能力を高める教育に力を入れているようです。
スウェーデンの幼児教育の根本にあるもの、それは子どもの「幸せ」なのです。
スウェーデン幼児教育のデメリット
スウェーデンの幼児教育には問題点や課題もあります。
○寒すぎるのに外遊び?
外遊びを重要視するスウェーデンでは冬でもマイナス10度くらい までなら外遊びをさせるようです。 日本人からすればそんな寒い日に外で遊ばせるなんて驚きますよね。
○教師の質があんまり…?
スウェーデンでは教師は「聖職」ではないらしく、 教師の質があまりよくないとされています。
保育園の先生もしょっちゅう変わるらしいです。 親からすると先生にはじっくり1年を通して子どもをみてもらいですよね。
スウェーデンの幼児教育を家庭でも取り入れよう!
とにかく自然のなかで遊びましょう! スウェーデンの幼児教育にならって 子どもをどんどん自然にふれさせてみましょう。
山や川、海など森でなくてもいいと思います。 子どもは特別な遊具がなくてもどんどん想像力を膨らませて 楽しいことを思いつきます。
体力はかなりつきますし、自然の大切さを学ぶこともできます。 親も一緒になって遊ぶことで育児のストレスも解消できますよ。
■ 生きる力を育てる幼児教材
子供の生きる力を大事に育てる幼児教材があるのをご存じですか?家庭でできる幼児教材「家庭保育園」は、創造性と体力づくりなどを大事にしています。スウェーデンの幼児教育と同様、 自然のなかで体力づくりをするカリキュラムも入っています。
→無料資料請求ができます(『IQ200天才児は母次第!』の書籍も無料!)
(参考WEBサイト)
スウェーデンの「森のムッレ教室」
http://talkbar.saga-s.co.jp/archives/67018932.html
日本野外生活推進協会 ムッレ協会
http://www7.ocn.ne.jp/~mulle/
サステナブルアカデミージャパン
http://www.susaca.jp/works
(参考資料)
リンカラン別冊「幸せいっぱいの出産、喜びの子育て」(2007)ソニーマガジンズ
p181〜190 「ムッレと遊ぶ、森を学ぶ」
河本佳子「スウェーデンのびのび教育」(2002)新評論 p32〜34
白石淑江「スウェーデン保育から幼児教育へ」(2009)かもがわ出版 P121
遠山哲央「北欧教育の秘密」(2008)柘植書房新社 p26